電子情報分野
研究室名
スピントロニクス研究室
研究室タイトル
スピントロニクスによる新機能材料、新機能デバイスの創成
主な研究テーマ
・磁気熱電発電効果(スピンゼーベック効果、異常ネルンスト効果)の研究
・機械学習を利用した磁気パラメータの推定
・スピン起電力と創発インダクタンスの研究
・3次元スピントロニックデバイスの研究
個別研究テーマ
  • 機械学習を利用した磁気パラメータの推定

    田辺 賢士

    2019年度 - 現在

     詳細

    スピントロニクス分野では、作製した磁性薄膜の磁気特性を評価するところから研究が始まる。しかし、磁気パラメータの中にはジャロシンスキー守谷交換定数のような評価が難しいパラメータも存在する。そこで我々は、磁性薄膜の磁気パラメータをより簡単に推定するために機械学習と数値計算を利用して研究を進めている。

    成果:

    2023年度
    撮像スケールの異なる磁区画像からの推定実験に挑戦し、DMI定数や飽和磁化の推定に成功した。

    2022年度
    局所安定状態における磁気画像を作成し、局所安定状態画像からのパラメータ推定の実験を行った。その結果、TbCo合金における濃度推定に成功した。
    S. Kuno et al., "Estimation of TbCo composition from a local-minimum-energy magnetic state taken by magneto-optical-Kerr-effect microscope by using machine learning", APL Machine Learning 1, 046111 (2023).

    2020年度
    数値計算と、プローブ顕微鏡画像を用いてDMI値の推定実験に成功した。さらに異方性分散の推定にも成功した。
    M. Kawaguchi et al., "Determination of the Dzyaloshinskii-Moriya interaction using pattern recognition and machine learning", npj Computational Materials (Nature Publishing) 7, 20 (2021).

  • 磁気熱電発電効果(スピンゼーベック効果、異常ネルンスト効果)の研究

    田辺 賢士

    2019年度 - 現在

     詳細

    本研究は、マグノン(強磁性体の磁化揺らぎ)の熱輸送現象をうまく利用して、スピンゼーベック効果(Spin Seebeck effect: SSE)の発電効率を、通常技術よりも100~1000倍に増強することを目指すものである。
    SSEは、多層膜を作製するだけで熱電発電できる。平坦な面であればどこにでも作ることができ、その適用可能範囲は極めて広い。しかし、発電効率が十分高いとは言い難く、ここに大きな問題が横たわっている。そこで、本研究では、フォノンの熱伝導によるエネルギー損失を最大限に抑えつつ、マグノン(磁化の揺らぎ)の伝播を利用して、熱浴から熱エネルギーを取り出し、SSEにより発電する新技術を確立する。

    成果:

    2023年度
    GdCo合金を用いて異常ネルンスト効果に基づいた熱流センサーの感度を評価した。その結果、両極性感度として世界最大の値を示すことを見出した。
    M. Odagiri et al., "Maximizing bipolar sensitivity for anomalous Nernst thermopiles in heat flux sensing in amorphous GdCo alloys", arXiv:2402.04259

    2022年度
    薄膜における熱伝導率の評価手法を確立した。注目したのは異常ネルンスト効果に2つの測定配置であり、これまで測定福能であった10nm以下の薄膜に対してでも測定可能になった。

    2022年度
    TbCo、GdCo合金を用いて異常ネルンスト効果の実験を行った。異常ネルンスト効果はTb、Gdの濃度が補償点に近づくと増加することが明らかになった。またTb、Gdの元素種に対する依存性はほぼないことが明らかになり、このことは起電力の増大効果が、Coの原子配置に起因するものであることを示唆している。
    M. Odagiri et al., "Coexistence of large anomalous Nernst effect and large coercive force in amorphous ferrimagnetic TbCo alloy films", Applied Physics Letters 124, 142403 (2024).

    2021年度
    TbCo合金を用いて磁化依存スピンゼーベック効果の研究を行った。TbCoを用いた場合、先行研究で報告されたCoに比べて3倍程度大きくスピン回転が引き起こされることが明らかになった。
    A. Yagmur et al., "Magnetization-dependent inverse spin Hall effect in compensated ferrimagnet TbCo alloys", Physical Review B 103, 214408 (2021).

    2020年度
    スピンゼーベック効果を用いて、TbCo合金におけるスピンホール効果の実験を行った。スピンホール効果の大きさはCoに比べて4倍大きくなることが明らかになった。
    A. Yagmur et al., "Large Inverse Spin Hall Effect in Co-Tb Alloys due to Spin Seebeck Effect", Physical Review Applied 14, 064025 (2020).

  • スピン起電力と創発インダクタンスの研究

    田辺 賢士

    2018年度 - 現在

     詳細

    スピン起電力はファラデーの電磁誘導の法則と対をなすスピンに由来した新しい起電力である。スピン起電力は磁気エネルギーを物質内部で直接電気エネルギーに変換できるため、エネルギー変換技術として期待されている。しかしこれまでの研究ではその起電力の大きさは十分大きいとは言えず、その大きさを向上が求められている。我々はスピン起電力の起電力向上を目指した研究を進めている。また最近ではインダクタンスへの応用が提案され、バルク材料を用いた研究が進んでいる。我々は薄膜を用いて微小なインダクタ開発の研究を進めている。

    成果:

    2022年度
    スピン起電力由来とされる創発インダクタの研究を進めた。Py薄膜における異方性磁気抵抗効果の虚数成分に注目して実験を行った。その結果、インダクタンスが振動する現象を発見し、この効果を異方性磁気インダクタンス効果と名付け、論文発表を行った。

    2021年度
    スピン起電力に関するこれまでの研究内容をまとめ、レビューした。研究初期の頃の様々な論文や、スピン起電力として認知された以降の発展等をまとめた。またさらに最近急激に研究が進んでいる創発電磁気学との関係や、その応用である創発インダクタについても報告した。

    2020年度
    磁気共鳴に誘起されるスピン起電力の発熱の影響を調査した。磁気共鳴現象は、励起された磁化の運動が、マグノン‐フォノン結合や、マグノン‐電子結合によってエネルギーがフォノン系や電子系に受け渡され、磁気共鳴が緩和することが知られている。フォノン系や電子系に受け渡されたエネルギーは発熱として現れるが、この発熱効果とスピン起電力の関係を明らかにした。温度上昇は少なくとも1 K以下であり、少なくとも現在の実験条件では、ほぼ影響しないことが明らかになった。

    2019年度
    フェリ磁性体であるGdFeCo合金において、スピン起電力の検出実験を行った。フェリ磁性体や反強磁性体におけるスピン起電力研究は、理論研究が進んでいるものの、実験研究としては世界で初めての結果である。Gdの濃度依存性を調査したところ、16%程度のとき、起電力を増大させることが可能であることが明らかになった。