一般教育分野
研究室名
人文科学分野(哲学)   
研究室スタッフ
研究室タイトル
思考力と対話力を鍛える
研究室概略
さまざまな思考実験を通して、論理的・批判的に考える力、善悪を見梱める判断力、問題の本質を見抜く洞察カ、他者に対して寛容に応答する姿勢を養う。「なぜ?」 と問い、疑問についてともに考え、それを言葉にして語り、他者の考えに耳を傾ける、という対話的思考を大切にしている。
主な研究テーマ
・哲学対話 (子どものための哲学)
・哲学教育に基づいた市民教育の可能性
・対話型組織開発
個別研究テーマ
  • 哲学対話の理論的・実践的研究、および哲学教育に基づいた市民教育と道徳教育の再生

    江口 建

    2020年度 - 現在

     詳細

     文部科学省が新学習指導要領の中で「主体的・対話的で深い学び」を掲げ、2018年度からは小学校や中学校で順次「道徳の教科化」が開始されました。それによって、より一層 「対話」が重視され、「考え、議論する」態度が推奨されています。また、2022年からは高等学校で「探究学習」(総合的な探究の時間)が開始され、「公共」が必修化されました。
     こうした流れの背景には、知識伝達型の座学の行き詰まりや、旧来のモラル教育の手ごたえのなさなどがあります。その一方で、形ばかりのグループワークを実施して、あたかも生徒たちが「主体的かつ対話的」に学んだことにする授業や、依然として「結論ありき」の道徳授業をやらざるをえない現実に、教師たちも悩んでいます。
     そこで注目されているのが、「哲学対話」です。1970年代にアメリカの哲学者マシュー・リップマンが考案した学校教育プログラムで、英語圏では“Philosophy for Children”(P4C:子どものための哲学)の呼称で知られています。今日ではさまざまな国の小学校、中学校、高校、大学で実践されつつあります。それは同時に、「対話」が持つ効果に着目し、教育現場に限らず、さまざまな実践の場で対話を活かしてゆこうとする活動の総称でもあります。そのため、フランス由来の「哲学カフェ」とも緩やかに結びついています。日本でも、その活動は全国に分布しています。近年では、役所や企業でも、その効果に着目し、地域活性化や地方創生、社内研修などに導入する動きがあります 。「話し合いにならない場」を「話し合いの場」に転換させる力が哲学対話にはあります。
     この哲学対話を基軸とした対話理論や教育手法の研究を、理論と実践の両面から行っています。同時に、哲学教育に基づいた市民教育・家庭教育・道徳教育の再生を模索しています。学校、企業、市民団体のイベントなど、さまざまな場所で哲学対話の実践と導入を試みています。哲学的-対話的思考に基づく人間教育と、共同的思考による共同体の再生を目指しています。

    成果:

    2023年度
     前年度に引き続き、学校教育、市民教育、家庭教育、企業教育のそれぞれの観点から活動した。市内の高校で企画された哲学対話に参画し、日本の将来を担う生徒たちの探求心や「考える力」の育成に尽力した。また、市内の小学校および中学校のPTA主催の「家庭教育セミナー」で講師を務め、哲学対話の観点から、子どもの「やる気」を引き出す教育や、人間関係の育み方について講演を行った。さらに、中部経済連合会/中部圏イノベーション推進機構と連携し、企業人を中心とした「大人の学びなおし」の可能性を探った。今年度は、とりわけ「ファシリテーション」に焦点を合わせ、研究教育活動に励んだ。哲学対話型ファシリテーションによる「対話型組織」の作り方や、教師とファシリテーターの違いに着目しながら、教育現場にファシリテーションを導入する方法を模索した。 あわせて、リベラルアーツの観点から、民主主義社会の実現を目指した市民教育の理論的可能性を探った。

    2022年度
     市内の高校で企画された哲学対話に参画し、さまざまなテーマで生徒たちと哲学対話を実施した。普段の授業や試験では実現しづらい探求心の醸成に貢献することができた。また、これまでの取り組みの継続として、市民団体で哲学対話を実施し、市民教育のあるべき姿について有意義な意見交換ができた。特に親子関係について、哲学対話の効果に関する有意な報告を受けた。あわせて、市民講座で講演を行い、市民教育や「学びなおし」の可能性を探った。

    2020年度
     2020~2021年度は、コロナ禍という特殊な状況において顕著となった問題を契機に、コロナ後の社会を見据えた学校教育、家庭教育、市民教育、道徳教育のあり方や、アフターコロナの市民社会のゆくえを、主に自由と抑圧の観点から考え、研究発表や講演という形で公表した。