■廃止組織■
研究室名
情報記録工学研究室   
研究室タイトル
ナノ構造スピン制御による新機能材料創成
研究室概略
ナノメ ータサイズのスピン材料では電子のスピン制御が可能となり、新機能デバイスの出現が期待される。本研究室では、スピンメタマテリアルの開拓により超省電力型ペタバイト級(光・磁気)メモリを開発し、地球湿暖化や工ネルギー問題への貢献を目指す。
主な研究テーマ
・センチュリーアーカイブ可能なペタバイト積層型スピンメモリ創成
・スピントルク応用磁壁駆動型スピンロジック創成
・スピン発霞および磁気熱電発電(異常ネルンスト効果、スピンゼーベック効果)の研究
・機械学習を利用した磁気パラメータ推定
個別研究テーマ
  • 25Gbps高速レーストラックメモリの研究

    粟野 博之

    2020年度 - 現在

     詳細

    光通信速度はメモリの記録速度よりも圧倒的に早く、その差を補うため大量の電力とコストを消費している。そこで、光通信の光をそのまま使って高速に光磁気記録できるオリジナル手法を検討している。これにより消費電力とコストを桁違いに低減できるため、Society5.0やSDGsへの貢献も期待できる。

    成果:

    2022年度
    波長1310nmの最短記録光パルス幅40psecでの記録系および波長780nmでの差動検出系を設計し、立ち上げている。次年度に詳細な記録再生評価を検討できる状態にまで持ち込んだ。また、高速磁壁駆動可能な媒体条件を見出した。

  • 低磁化、高磁気異方性磁性細線における磁壁の低電流駆動化の検討

    粟野 博之

    2010年度 - 現在

     詳細

    磁性細線メモリの基礎研究課題として磁壁の低電流密度化がある。IBMはFeNi面内磁化膜を使って電流密度を1×1012A/m2に、京大・NECグループはCo/Ni垂直磁化多層膜を使って3×1011A/m2まで低減することに成功している。いずれも磁化の値が大きく磁壁移動に大きなエネルギ変化をもたらす。そこで、磁化が小さく垂直磁気異方性の大きなTbFeCoアモルファス合金を使って磁壁移動に必要な電流密度を世界最小の4×1010A/m2まで低減する事に成功した。

    成果:

    2022年度
    GdFeCo/Pt磁性細線において、電流パルス幅の短いパルス電流を印加すると、磁壁の移動速度が2000m/secに達することを見出した。外部磁界アシストを不要とする方法で世界最速である。通常この条件は特定の温度ピンポイントという予想を覆して、0℃から70℃まで変化させても高速で実用的であることを確認できた。

  • ナノインプリント磁性細線を利用した省電力全個体磁気メモリの研究

    粟野 博之

    2010年度 - 現在

     詳細

    省電力が期待される磁性細線メモリはSiエッチングで作られているため、仮に研究に成功してもハイエンドメモリにしかならず省電力貢献は小さい。しかし、光ディスク同様の安価な成型プロセスで磁性細線が作れるならば低コストでハイパフォーマンスなユニバーサルメモリに展開できる可能性がある。しかも磁壁駆動には平滑構造細線が必要であり本プロセスで作成が可能である。ナノメータサイズのエッチング磁性細線では作成が困難であり、そのため磁壁駆動に必要な電流密度低減が難しいと考える。そこで、光ディスク同様の溝形状にスパッタ膜を製膜し、磁壁の電流駆動を試みた結果、電流密度は6×109A/m2にまで低減した。今後、溝形状の最適化を行い、さらなる低電流密度化に挑戦する。

    成果:

    2022年度
    ポリカーボネイトプラスチックナノインプリイント基板を作成し、その上に希土類・遷移金属合金または多層膜をスパッタ製膜するだけで、再現性ある磁性細線を容易に作成できることを見出した。磁壁駆動に必要な電流密度も高価なSi基板に半導体プロセスで作った磁性細線に比べて一桁小さい。超安価で超省電力なスピントロニクスデバイスに活用できる。

  • 3次元磁気記録および磁気光学ニューラルネットワークの基礎検討

    粟野 博之

    2010年度 - 現在

     詳細

    ビットパターン媒体表面に温度勾配で記録磁区パターンが移動可能な磁性膜を形成し、熱アシスト磁気記録用ヘッドでパターン磁化された部分を加熱すると、温度勾配でビットパターン奥に記録された磁区が表面に移動する。これをTMRヘッドで再生できると3次元磁気記録が可能になる。この提案を検証するための記録媒体の基礎検討を行っている。

    成果:

    2022年度
    ポリカーボネイトナノインプリント基板に磁性細線パターンを形成し、これを複数枚重ねて3次元記録ができる。100層の場合、2.5インチSSDサイズに100TBくらいのデータ記録が期待できる。また、1層1層に任意の磁気パターンをニューロンとして形成できる。基板は透明であり、磁性層も数nmと薄くできるので円偏光または直線偏光を照射すると、出射光側に磁気光学パターンが出現する。これを用いたニューラルネットワークの研究を開始した。

  • ナノインプリントスピンメモリの研究

    粟野 博之

    2011年度 - 現在

     詳細

    これまでの磁性細線の一般的な作成法は、高価なSi基板上に磁性膜を形成し、細線作成プロセス(エッチング)により細線微細加工を行うものであった。この作成法はプロセスが大変複雑で細線形状にバラつきが大きく細線エッジ荒れが大きい問題をかかえていた。したがって、作成コストも非常に高く、性能が高くても限定的な用途にしか利用できない。しかし、我々が提案したナノインプリントを利用する新しい磁性細線作成法の場合には、安価なプラスチック基板に記録膜を成膜するだけのシンプルで安価に磁性細線を作成できる。実際に本手法で従来法よりも磁性細線上の磁壁を1桁低い電流密度で駆動する事ができた。更なる電流密度低減策を検討している。

    成果:

    2022年度
    ポリカーボネイトフィルムに磁性細線金型をナノインプリントし、この上に磁性薄膜を作成する新しい磁性細線作成法を提案実証した。これは従来の高価な半導体プロセスに比べてコストを10000分の1に低減でき、磁壁の駆動エネルギーを10分の1に低減できる。この手法で安価で高性能なスピンエレクトロニクスデバイスを作成することができる。

  • スピンオービトロ二クスの研究

    粟野 博之

    2017年度 - 現在

     詳細

    磁性細線に用いる磁性材料およびその磁性材料の下地膜や保護膜の影響で、磁性細線上の電流による磁壁駆動に大きな違いが生じる。保護膜や下地膜に同じ材料を用いると、その磁壁は伝導電子のスピントルクで電子流の方向に回転しながら移動する。しかし、例えば下地膜を異なる材料にするとその対称性が崩れて磁壁の移動は電子流と逆向きに回転を止めた状態で移動する。これらは異種界面(ヘテロ界面)からのスピン軌道相互作用と考えられ、この新しい物理現象をスピンオービトロニクスと呼んでいる。この新しい物理現象のメカニズム解明の研究を行っている。

    成果:

    2022年度
    磁性膜/重金属ヘテロ界面を有する磁性細線には大きなスピン軌道トルクが働く。しかし、これは界面現象であるため界面2nm程度にしか利用できない。しかし、TbCo/Pt磁性細線では、フェリ磁性でTbとCoの角運動量が逆向きであるためスピン軌道トルクがバルク的に作用し、応用上有益であることを見出した。また、この伝導現象は可視光領域まで及んでいることを世界で初めて見出した。この成果はIEEE NAgoya Outstanding Presentation Awardで表彰された。

  • スピンロジックの研究

    粟野 博之

    2011年度 - 現在

     詳細

    現在のCPUでは、メモリとロジックをデータバスで結んで運用しているためデータ処理速度に限界を生じているが、電流駆動型スピンメモリとスピンロジックは混在することが可能であり、磁壁移動速度も速い事から高速なロジックインメモリ作製が期待できる。この基本動作検証と簡単なデモンストレーションを目指して研究を行っている。スピンメモリの基本動作確認やスピンロジックのAND、OR、NOT,FANOUTなどの個別での原理確認には成功しており、今後複合型動作の検証を行う。

    成果:

    2022年度
    消費電力を低減した電流駆動磁性細線メモリと同じ駆動原理でスピンを使ったAND、OR,NOTロジックを試作し、電流印加によるこれら演算が可能なことを示した。さらに演算結果を次の複数の演算に受け渡すファンアウト動作も検証した。これにより理想的なロジックインメモリの実現が可能になる。

  • スピン発電の研究

    粟野 博之

    2014年度 - 現在

     詳細

    磁性細線に電流を印加すると、伝導電子のスピントルクトランスファー効果により磁性細線上の磁壁を駆動できる。これとは反対に、磁性細線上の磁壁を駆動すると伝導電子を動かす事ができるはずである。これはスピン発電と呼ばれ、従来のファラデーの法則とは異なり、直接伝導電子を駆動するタイプの発電となる。我々は、保磁力の大きな垂直磁化膜である希土類・遷移金属合金からなる磁性細線を用いて、従来の保磁力の小さなFeNi合金磁性細線によるスピン発電を桁違いに改善する研究を行っている。

    成果:

    2022年度
    ガラス基板上に成膜したGdFeCo磁性細線中に磁壁を導入し、外部磁界で磁壁を駆動すると数10mVの起電力が生ずることを見出した。これは従来のスピン発電方向例よりも3桁以上大きな値であり、実用域の100mVを狙えるレベルにまで向上できた。今後、更なる起電力向上を目指した条件探索を行う。なお、本研究成果としてIEEE Nagoya Outstanding Presentation Awardを受賞した。

  • 機械学習を利用した磁気パラメータの推定

    田辺 賢士

    2019年度 - 現在

     詳細

    スピントロニクス分野では、作製した磁性薄膜の磁気特性を評価するところから研究が始まる。しかし、磁気パラメータの中にはジャロシンスキー守谷交換定数のような評価が難しいパラメータも存在する。そこで我々は、磁性薄膜の磁気パラメータをより簡単に推定するために機械学習と数値計算を利用して研究を進めている。

    成果:

    2023年度
    撮像スケールの異なる磁区画像からの推定実験に挑戦し、DMI定数や飽和磁化の推定に成功した。

    2022年度
    局所安定状態における磁気画像を作成し、局所安定状態画像からのパラメータ推定の実験を行った。その結果、TbCo合金における濃度推定に成功した。
    S. Kuno et al., "Estimation of TbCo composition from a local-minimum-energy magnetic state taken by magneto-optical-Kerr-effect microscope by using machine learning", APL Machine Learning 1, 046111 (2023).

    2020年度
    数値計算と、プローブ顕微鏡画像を用いてDMI値の推定実験に成功した。さらに異方性分散の推定にも成功した。
    M. Kawaguchi et al., "Determination of the Dzyaloshinskii-Moriya interaction using pattern recognition and machine learning", npj Computational Materials (Nature Publishing) 7, 20 (2021).

  • 磁気熱電発電効果(スピンゼーベック効果、異常ネルンスト効果)の研究

    田辺 賢士

    2019年度 - 現在

     詳細

    本研究は、マグノン(強磁性体の磁化揺らぎ)の熱輸送現象をうまく利用して、スピンゼーベック効果(Spin Seebeck effect: SSE)の発電効率を、通常技術よりも100~1000倍に増強することを目指すものである。
    SSEは、多層膜を作製するだけで熱電発電できる。平坦な面であればどこにでも作ることができ、その適用可能範囲は極めて広い。しかし、発電効率が十分高いとは言い難く、ここに大きな問題が横たわっている。そこで、本研究では、フォノンの熱伝導によるエネルギー損失を最大限に抑えつつ、マグノン(磁化の揺らぎ)の伝播を利用して、熱浴から熱エネルギーを取り出し、SSEにより発電する新技術を確立する。

    成果:

    2023年度
    GdCo合金を用いて異常ネルンスト効果に基づいた熱流センサーの感度を評価した。その結果、両極性感度として世界最大の値を示すことを見出した。
    M. Odagiri et al., "Maximizing bipolar sensitivity for anomalous Nernst thermopiles in heat flux sensing in amorphous GdCo alloys", arXiv:2402.04259

    2022年度
    薄膜における熱伝導率の評価手法を確立した。注目したのは異常ネルンスト効果に2つの測定配置であり、これまで測定福能であった10nm以下の薄膜に対してでも測定可能になった。

    2022年度
    TbCo、GdCo合金を用いて異常ネルンスト効果の実験を行った。異常ネルンスト効果はTb、Gdの濃度が補償点に近づくと増加することが明らかになった。またTb、Gdの元素種に対する依存性はほぼないことが明らかになり、このことは起電力の増大効果が、Coの原子配置に起因するものであることを示唆している。
    M. Odagiri et al., "Coexistence of large anomalous Nernst effect and large coercive force in amorphous ferrimagnetic TbCo alloy films", Applied Physics Letters 124, 142403 (2024).

    2021年度
    TbCo合金を用いて磁化依存スピンゼーベック効果の研究を行った。TbCoを用いた場合、先行研究で報告されたCoに比べて3倍程度大きくスピン回転が引き起こされることが明らかになった。
    A. Yagmur et al., "Magnetization-dependent inverse spin Hall effect in compensated ferrimagnet TbCo alloys", Physical Review B 103, 214408 (2021).

    2020年度
    スピンゼーベック効果を用いて、TbCo合金におけるスピンホール効果の実験を行った。スピンホール効果の大きさはCoに比べて4倍大きくなることが明らかになった。
    A. Yagmur et al., "Large Inverse Spin Hall Effect in Co-Tb Alloys due to Spin Seebeck Effect", Physical Review Applied 14, 064025 (2020).

  • スピン起電力と創発インダクタンスの研究

    田辺 賢士

    2018年度 - 現在

     詳細

    スピン起電力はファラデーの電磁誘導の法則と対をなすスピンに由来した新しい起電力である。スピン起電力は磁気エネルギーを物質内部で直接電気エネルギーに変換できるため、エネルギー変換技術として期待されている。しかしこれまでの研究ではその起電力の大きさは十分大きいとは言えず、その大きさを向上が求められている。我々はスピン起電力の起電力向上を目指した研究を進めている。また最近ではインダクタンスへの応用が提案され、バルク材料を用いた研究が進んでいる。我々は薄膜を用いて微小なインダクタ開発の研究を進めている。

    成果:

    2022年度
    スピン起電力由来とされる創発インダクタの研究を進めた。Py薄膜における異方性磁気抵抗効果の虚数成分に注目して実験を行った。その結果、インダクタンスが振動する現象を発見し、この効果を異方性磁気インダクタンス効果と名付け、論文発表を行った。

    2021年度
    スピン起電力に関するこれまでの研究内容をまとめ、レビューした。研究初期の頃の様々な論文や、スピン起電力として認知された以降の発展等をまとめた。またさらに最近急激に研究が進んでいる創発電磁気学との関係や、その応用である創発インダクタについても報告した。

    2020年度
    磁気共鳴に誘起されるスピン起電力の発熱の影響を調査した。磁気共鳴現象は、励起された磁化の運動が、マグノン‐フォノン結合や、マグノン‐電子結合によってエネルギーがフォノン系や電子系に受け渡され、磁気共鳴が緩和することが知られている。フォノン系や電子系に受け渡されたエネルギーは発熱として現れるが、この発熱効果とスピン起電力の関係を明らかにした。温度上昇は少なくとも1 K以下であり、少なくとも現在の実験条件では、ほぼ影響しないことが明らかになった。

    2019年度
    フェリ磁性体であるGdFeCo合金において、スピン起電力の検出実験を行った。フェリ磁性体や反強磁性体におけるスピン起電力研究は、理論研究が進んでいるものの、実験研究としては世界で初めての結果である。Gdの濃度依存性を調査したところ、16%程度のとき、起電力を増大させることが可能であることが明らかになった。