・Large-N極限における対称性の自発的破れ
・行列模型が記述する時空構造
・場の理論、弦理論における摂動級数と非摂動効果の関係
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Resurgenceを用いたwormholeのダイナミクス
黒木 経秀
2022年度 - 現在
詳細
弦理論と実験の乖離が素粒子物理学における最も深刻な問題の一つであるという認識から、量子重力理論から自然界のパラメーターが決定される初の例を具体的に構成しうるか、という学術的問いの解決に向けて本研究を行う。近年の量子重力理論におけるwormholeの重要性の認識を動機として、具体的には行列模型の連続極限から、wormholeの寄与を予め取り入れた新しい2次元量子重力理論を非摂動的に定義し、その自由エネルギーの満たす微分方程式を導出する。この導出には私が習熟している直交多項式やresurgenceのアイディアを用いる。そしてこの微分方程式から、この理論の宇宙定数がwormholeの足し上げによって決定されるというColemanの機構が成立しているかを検証し、低次元ではあるが量子重力理論の最重要課題を解決している初の例になっていることを具体例により示す。さらに微分方程式からブラックホールの情報喪失問題における量子重力の効果について知見を得る。
成果:
2024年度
Double trace項を含む行列模型において具体的にdisk振幅を求めた。Double trace項の異なる取り方に対し同じ結果が得られることを確認し、universalityの強い証拠を得た。また、wormhole-dominant phaseの取り方が2通り提唱されているため、両方が同じ結果を与えることを確認し、それらの等価性を検証した。得られたdisk振幅はpure gravity phaseのものと一致するという非常に非自明な結果を得た。また、Liouville理論からのその理由付けを行った。一方、先行研究では全てdouble-trace項の結合定数が臨界点直上に固定されていることを踏まえ、それをずらして連続極限を取ることより、くりこまれたwormhole couplingを理論に初めて導入した。さらにdisk振幅はlarge-N極限でbulk effective cosmological constantとwormhole couplingの特定の組み合わせにしか依らず、これによりwormhole couplingをtuneすると、cosmological constantがゼロにできることを指摘した。2023年度
Double trace項を含む行列模型の解析法として、character展開が適しているという知見が得られたため、その方向性を検討した。その際得られたアイディアとして、逆に指標展開が可能な行列模型に対してwormholeの寄与を評価する新しい方向性に気づいたため、その検討も行った。具体的には、特に超対称ゲージ理論に付随する行列模型のうちこのクラスに属するものがあり、これらは確かにdouble trace項の和で表されることに注目した。この模型におけるwormholeの寄与について解析することを予定している。また、double trace項を含む行列模型の解析は難しいが、それを含まない行列模型でも同じ連続極限を与える可能性が指摘されていることに気づき、急遽その正当性の解析を行っている。String equation等の提案もなされているため、昨年度我々が求めた摂動級数や非摂動効果が再現されるかを確認することにより、直ちにその正当性が確認可能な状況である。2022年度
本研究の最重要課題の一つはdouble-trace項を含む行列模型の自由エネルギーが満たす微分方程式の導出であるから、まずpotentialおよびdouble-trace項を様々な形に仮定した場合の臨界点を求め、sphere free energy, disk amplitudeやdouble scaling limitの取り方などを同定した。また、sphere topologyにおける臨界指数(string susceptibility)を求めた。この際、従来Das, Dhar, Sengupta and Wadiaによる方法と、Hashimoto and Klebanovによる方法が知られてい
たが、両者が一致した結果を与えることを具体的な模型で確認した。後者の方が取り扱いが便利なため、両者の等価性を一般的なdouble-trace matrix modelで示す重要性を認識した。さらにこれらの模型において、instanton actionを求めたところ、ポテンシャルやdouble trace項の詳細に依らずにdouble traceがない場合の結果と一致することを確認した。この結果は、double trace項がない行列模型が定義するLiouville理論と、wrong branchを取った場合のLiouville理論が同じ形の非摂動効果を持つことを意味する。あるいは2次元重力の通常のphaseとwormhole-dominant phaseで同じ非摂動効果を持つことを意味している。この結果はdouble-trace matrix modelのfree energyのresurgence構造に重要な示唆を与えるものであり、よって目標とするstring equationの同定に重要な進歩である。 -
BECにおけるHawking輻射
黒木 経秀
2023年度 - 現在
詳細
BEC Hamiltonianを量子論的に解析することにより、ブラックホールの情報喪失問題解決への知見を得る。BEC Hamiltonianは量子論的にwell-definedであり、またanalog gravityの模型としてblack holeと同様にHawking輻射を起こすことが知られている。よってBEC Hamiltonianの量子論的解析から、微視的にHawking radiation、特にそのentanglement entropyを導出し、Page curve等information lossおいて重要な量を解析し、情報喪失問題解決へ示唆を得ることが本研究の目的である。特に重力理論では取り入れることが困難なback reactionをきちんと取り入れて解析を行う。
成果:
2024年度
Bogoliubov係数を求めるためには、horizonの中と外でのmode関数の形が必要である。先行研究で具体的は与えられているものの、現在考えているような非自明な古典解の周りではそれが必ずしも正当化できないため、どのような条件で正当化できるかを明らかにした。また、本研究で対象とする背景場はhorizonで急激な変化をするため、どのような条件で接続を行うかは自明ではないことに気づき、接続条件もBogoliubov方程式からの慎重な導出を行った。これにより、back reactionを考慮しないときのBogoliubov係数の系統的な導出を行った。2023年度
まず理論を完全に定義するため、先行研究で考察されている設定がBECとして実際に実現できるか、理論のパラメーターを選ぶことにより調べた。その結果、理論の無矛盾性から、先行研究では見過ごされているいくつかの重要な制限が付くことを発見した。またGross-Pitaevskii方程式において、backgroundとその周りの揺らぎを分離し、逐次両者の高次項を取り入れていくことにより、back reactionが系統的に取り扱えることを示した。この結果に基づき、Hawking radiationによるback reactionを2点関数の形で具体的に求め、それを用いてback reactionを受けた背景中での揺らぎの波動関数を陽な形で求めることに成功した。