特任教員部門
研究室名
高野健一特任教授研究室
研究室スタッフ
研究室タイトル
物質中の量子現象を解明する理論研究
研究室概略
物質中で電子が強く相互作用する場合や、量子効果が特に重要となる 場合に着目して、さまざまな電気伝導や磁性が出現するメカニズムを基礎的立場から理論的に研究している。
主な研究テーマ
・量子スピン系の性質
・低次元強相関電子系の性質
・物質の融解現象
個別研究テーマ
  • 強相関電子系におけるスピンとホールの束縛状態

    高野 健一

    2017年度 - 現在

     詳細

    物質中で電子間に強い斥力が働く場合には,ちょうど半分まで電子バンドが詰まったときに絶縁状態となる(Mott絶縁体).ここから,わずかに電子数を減らしたとき,減った分の電子の欠乏(ホール)がどのように振る舞うかが,この物質の電気伝導を決定する.このホールは,電子バンドが完全に詰まったときのバンド絶縁体中のホールとは全く異なる多体問題の概念である.このホールの性質を,典型的な理論模型として,1次元及び2次元のt1-t2-J1-J2模型を採用して数値計算を用いて検討してきた.今までの研究で,ホールとスピンの束縛状態として,スピンの大きさが2以上のものが生ずること,スピンの大きさが1のときと同様に一体となって複合粒子として運動すること,2つあると互いに斥力的であることなどがわかっている.この複合粒子の統計性などの性質を調べていく.

    成果:

    2023年度
    複合粒子の性質は高次元系でも同様であることを考察した.

  • 金属の融解温度の定式化

    高野 健一

    2017年度 - 現在

     詳細

    物質の融解は,その物質が固体であるときの自由エネルギーと液体であるときの自由エネルギーが等しくなる温度で起こる.この融解温度を求める正攻法は,その物質の固体と液体の自由エネルギーをそれぞれ計算し,文字通りこれらが一致する温度を求めることである.しかし,この方法を実行することは非常に困難な作業となる.固体と液体の自由エネルギーの差は,自由エネルギー自体に比べて何桁も小さいため,固体・液体それぞれの自由エネルギーを近似的に求めるときに何桁もの精度が要求されるからである.ここでは,この問題を回避して,金属の融解の場合に固体側からだけのアプローチで融解温度を決定する方法を提案した.それは,融解温度にきわめて近い温度で格子が不安定化して,格子振動の横波成分が消失するはずであるという考えに基づく.今まで,いくつかの近似のもとで横波成分が消失する条件から,金属の融解温度を与える公式を導出した.この融解温度は,物質定数として,最近接のイオン間隔,イオンの価数,金属電子の有効質量だけを含む簡潔なものである.この公式がアルカリ金属などの融解温度の実験値と比較して良好な値を与えることを確認している.この公式がその他の物質に対して有効であるかや,いろいろな条件に適応するように改良ができるかを継続して研究している.

    成果:

    2023年度
    アルカリ金属以外の物質の融解温度を検討している.

  • 1次元および2次元の磁性体における量子スピン液体

    高野 健一

    2017年度 - 現在

     詳細

    ダイヤモンド鎖とよばれる1次元格子上に電子スピンが配列した磁性体がある.この磁性体は,1次元であることに加え,スピン間に幾何学的なフラストレーションがあるため,量子ゆらぎが非常に大きいという特徴があって,興味深い研究対象である.この量子ゆらぎの効果は,スピンの秩序を妨げ,さまざまなスピン液体を形成する可能性を持つ.どのような,スピン液体相が生ずるかは,この磁性体を構成するスピンの大きさにも依存している.当研究室では,理論的な立場から,スピンの大きさごとにどのような新奇な量子状態何が生ずるかを解明する研究を行っている.2次元では,蜂の巣格子上のスピン系をハイゼンベルグ模型で記述するとスピン励起にギャップのある量子スピン液体が生ずることがわかってきた.含まれる相互作用の値を変更すると,ダイマー的およびヘキサゴナル的と異なった性質を持つスピン液体状態が連続的に遷移する.このモデルで表現できる物質も見つかりスピン液体の存在も確認されている.このスピン液体の性質を理論的に解明する研究を行っている.

    成果:

    2023年度
    蜂の巣格子上のスピン系において,数値計算で得られた相図は非線型シグマモデルによる相図を再現することがわかった.定量的には,非線型シグマモデルの方法では秩序相が大きく出てしまう.